Mogicを味つけ -ブランディングメディア-

制作秘話

新型Mogicの顔を作る:組織改変に合わせたステーショナリーリニューアルの裏側

2025.07.08

4月1日、Mogicは大きな組織改変を迎えました。代表が「新型Mogicに生まれ変わる」と表現したこの変化に合わせて、会社の顔とも言える名刺、封筒、クリアファイルも全面リニューアル。その制作を一手に担ったのは、デザイナーチームのKさんです。

5年ぶりの大改編、なぜ今?

「5年前に作った組織の余白を使い切っちゃってパツパツだからですね。ゆったりサイズの服を着たいじゃないですか」と代表が語った今回の組織改編。前回2019年と異なり、今度は会社全体を支える莫大な業務システムが稼働する中での変化でした。

「幹はスリムに、周りはタプタプに」という新しい組織構造に合わせて、ブランドデザインの刷新も同時進行で決定。時間のない中、Kさんの挑戦が始まりました。

2月始動、まずは妄想から

制作が始まったのは2月。まずは妄想からのスタートです。キーワードを出し合い、「○○な名刺」と一言で表現してみたり、急ピッチでアイデアを出し尽くしていきました。

一週間で3案を完成させ、経営会議のメンバーにプレゼン。コンセプトはしっかりしていましたが、返ってきたのは予想外のフィードバックでした。

「どのコンセプトもいいけど『Mogicらしさ』が欠けている」「Mogicはもっと間が抜けている、こんなにきれいじゃないよね」

う、なるほど。

「マヌケ」をどう表現するか

そこからKさんの長いトンネルが始まりました。「マヌケをどうやって表現するか」という、なんだか矛盾するような課題への試行錯誤です。

きれいにまとまったデザインじゃ表現できない「Mogicらしさ」って何だろう。それは完璧すぎない人間味だったり、どこか抜けている愛らしさだったり。

突破口は一枚のラフ

行き詰まりを破ったのは、Kさんが描いた一枚のラフスケッチでした。「Mogic」をキャラ化して、お喋りしている雰囲気を表現したそのラフに、一番「らしさ」が出ていたんです。

普段からよく絵を描いているKさんならではの、作りきらない自然な表現力がここで活かされました。堅いコーポレートデザインじゃなくて、親しみやすさと人間味が宿った一枚が、プロジェクトの方向性を決めてくれました。

2つの軸で表現するMogicらしさ

①作り出す感を大事にしたい

「名刺を受け取った人がモノ作り感に触れられるように」

これまでのペンキ×水彩のような質感から、べったり感や手触り感へとシフト。複数の色を重ねて、組み合わせて、作っていく——多色刷りの質感で「重なる、合わさる、作り上げる」というモノづくりのプロセスそのものを表現しました。

②人っぽさ、きっちりしすぎない感

「Mogicの空気感、みんなが持っているズレを表現したい」

ここでKさんが選んだのは、視覚的にざらつかせること、そして敢えて版ズレをデザインに入れることでした。完璧を求めがちなデザインの世界で、意図的に「ズレ」や「不完全さ」を取り入れる——これこそがMogicの人間味を表現する方法だったのです。

「ブランカ現象」からの脱却

実は、ここまでの道のりでKさんは大きな壁にぶつかっていました。「整ったデザインで行こうとしすぎて悩んでた」と振り返るKさん。

Mogic社内では、これを「ブランカ現象」と呼んでいます。昔、Webメディア「さしすせそ」のネーミングを考えていた時、響きが素敵で「ブランカ」が候補に上がったことがありました。でも代表から「素のキャラクターからギャップが大きすぎない?本当は食いしん坊なんだから、そのキャラを出したほうがいい」と言われたことを境に、自分たちのキャラを装って背伸びしているアウトプットを「ブランカ現象」と呼ぶようになったんです。

まさにKさんも、完璧で整ったデザインを目指しすぎて、Mogicらしさを見失いかけていました。

「別の視点で模索したものがいいじゃん、になって『抜けてる感や私らしさが出てて、この路線でいいと思うよ』と言ってもらえたこと」が、Kさんにとって大きな転機になりました。

1文字1文字に表情を

突破口が見えてからは、急ピッチで仕上げ作業に入りました。コンセプトが決まったKさんのアイデアは具体的で魅力的でした。

「Mogicの1文字1文字にそれぞれ表情を持たせる」というアイデア。わいわい、がやがや、もくもく...社内の雰囲気そのものを、文字の表情で表現しようと考えたんです。

特に「M」はオモテ面に大きく配置し、「『こんにちは!』みたいな、呼びかけてくれそうな感じ」を意識。名刺を受け取った瞬間から、Mogicの人たちの人懐っこさが伝わるような工夫です。

紙と加工へのこだわり

データだけでなく、実物の質感にもこだわりました。選んだのは控えめなパールが入った紙。「手に取ってもらうと、きらめきがわかるようになってます。遊び心です」とKさん。

角丸加工も施すことで、「Mogicの人たちが穏やかそうでみんなでわいわいしている雰囲気が伝わるといいな」という思いを込めました。デザイナーとしてやってみたかったことも詰め込んだ、こだわりの仕上がりです。

「作り出す感」と「人っぽさ」という2つの軸を、データと実物の両方で表現。多色刷りの温かみと版ズレの人間味、そして触って分かるパールの質感。新しいMogicの顔ができました。

「らしさ」を追求する難しさと面白さ

今回のリニューアルを通して見えてきたのは、「らしさ」を表現することの奥深さです。完璧な技術だけじゃ伝わらない企業の空気感を、どうビジュアルに落とし込むか。

「ブランカ現象」で悩んだKさんの体験は、同じような課題に向き合うクリエイターの方々にとって、きっと共感できるプロセスだと思います。背伸びしすぎず、素のキャラクターを活かす。「作りきらないラフに一番らしさが出ていた」という気づきは、完成度の高いデザインを求めがちな私たちに、違う視点をくれました。

新型Mogicの顔として生まれ変わったステーショナリー。そこには技術と感性、そして何より「人っぽさ」への深い愛情が込められています。